ドクターコラムDoctor Column

睡眠時無呼吸症候群による合併症の発症

日本人での有病率は成人の4~6%以上との報告も

 睡眠障害は種々の原因で生じますが、睡眠時無呼吸症候群(SAS)も重要な原因の一つです。
 SASは、睡眠時に無呼吸または低呼吸になる病気で、睡眠障害のため昼間に眠気、倦怠感、集中力の低下などに悩まされます。2003年にJR山陽新幹線の運転士が起こした居眠り運転によるオーバーランは、原因がSASと診断されたため、SASに対する関心が一気に高まりました。SASには脳血管障害の後遺症や心不全時に呼吸中枢の障害によって起こる中枢型睡眠無呼吸症候群と、睡眠中の筋弛緩により舌根や軟口蓋が下がり気道を閉塞するために起こる閉塞型睡眠無呼吸症候群がありますが、ほとんどは閉塞型です。

 日本人での有病率は成人の4~6%と予想されていますがそれ以上との報告もあります。
 SASの重大な問題点は睡眠時の高度な呼吸障害が持続することによって種々の合併症を発症してくることです。
 おもな合併症について解説します。

1 高血圧

 SASでは睡眠中の血圧変動と血圧上昇を認めますが、昼間の高血圧も生じてきます。
 薬剤抵抗性の難治性高血圧ではSASの合併を疑う必要があります。

2 冠動脈疾患・脳血管障害

 心筋梗塞や狭心症といった冠動脈疾患の発症率もSASでは高値で、すでに冠動脈疾患が存在している場合は予後を悪化させることが示唆されています。
 またSASにより脳卒中の頻度も増加します。健常人とくらべ冠動脈疾患は3倍、脳血管障害は4倍発症率が高まると報告されています。

3 心不全

 SASで高血圧や冠動脈疾患が増えると最終的には心機能が障害され、心臓のポンプ機能が低下する心不全という状態になります。

4 肺高血圧

 SASでは睡眠中の無呼吸あるいは低呼吸が原因で低酸素血症となり、肺血管が収縮し、心臓から肺に血液を送る肺動脈の圧が上昇する肺高血圧となります。肺高血圧が持続すると血液の循環が障害されるため、心臓の機能が低下します。

5 生活習慣病

 閉塞型無呼吸症候群では肥満を合併していることが多く、肥満と関連性の高い糖尿病や脂質異常症、メタボリック症候群といった生活習慣病を合併する場合もあります。

 

 閉塞型無呼吸症候群の治療に使われる鼻マスク(顔面に接するように装着し、陽圧を鼻孔から気道に加えることによって気道を確保するためのマスク)の使用によって、これらの循環器系合併症が改善することが報告されているので、大きないびきや睡眠時に呼吸が止まると指摘された場合は、睡眠中の呼吸状態を調べる終夜睡眠ポリグラフ検査を受けることをお勧めします。

院長 循環器科:能戸 徹哉

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