ドクターコラムDoctor Column

禁煙外来について

 日本人の喫煙率は17.7%で、男性が29.4%、女性が7.2%です(2018年)。この10年間でみると、いずれも有意に減少しています。年齢階級別にみると、30~40歳代男性では他の年代よりも禁煙率が高く、約4割が習慣的に喫煙している状況です。
 喫煙が肺癌をはじめとする多くの癌や呼吸器疾患、循環器疾患のリスクとなり、健康へ悪影響を及ぼすことは広く知られています。さらに受動喫煙のリスクを考えると、喫煙者の禁煙のみならず社会全体としての禁煙を推し進めていくことが重要です。

 平成18年には自由診療であった禁煙治療が保険適用となり、禁煙外来を設置し、積極的に禁煙に取り組む医療機関が増えています。
 実際の禁煙治療では以下の要件をすべて満たした方のみ、12週間に5回の禁煙治療に健康保険が適用されます。

  1. ニコチン依存症に係るスクリーニングテスト(TDS)で5点以上、ニコチン依存症と診断された方
  2. 35歳以上の場合、ブリンクマン指数(=1日の喫煙本数×喫煙遠陬)が200以上の方
  3. 直ちに禁煙することを希望されている方
  4. 「禁煙治療のための標準手順書」に則った禁煙治療について説明を受け、当該治療を受けることを文書により同意された方

 禁煙外来ではチャンピックス(内服薬)かニコチネルTTS(貼り薬)を用いて治療をしますが、チャンピックス服用後に、めまい、傾眠、意識障害等の症状があらわれ、自動車事故に至ったとの報告があります。事故を防ぐために、チャンピックスを服用した場合は自動車運転等の危険性を伴う機械の操作に従事しないよう注意する旨の通知が2011年に厚生労働省から出されました。したがって、自動車の運転業務に従事している、または通勤等で運転をする方は、ニコチネルTTS(貼り薬)による禁煙治療になります。

チャンピックスはニコチン切れの症状を軽くし、さらに煙草を吸った時の満足感を抑えます。ニコチンは含まれていません。
ニコチネルTTSにはニコチンが含まれ、ニコチンが皮膚から吸収されます。貼り薬のサイズを小さいものに順次切り替えてニコチン依存症を改善させます。

受診時には、毎回、呼気中の一酸化炭素濃度を測定して禁煙の効果を把握します。また禁煙継続の為のアドバイスや副作用が発現していないかをチェックします。

ニコチン依存症に係るスクリーニングテスト(TDS)

各設問に対し、「はい」または「いいえ」を選択してください。

Q1 自分が吸うつもりよりも、ずっと多くタバコを吸ってしまうことがありましたか はい いいえ
Q2 禁煙や本数を減らそうと試みて、できなかったことがありましたか はい いいえ
Q3 禁煙したり本数を減らそうとしたときに、タバコが欲しくて欲しくてたまらなくなることがありましたか はい いいえ
Q4 禁煙したり本数を減らした時に、次のどれかありましたか
・イライラ
・神経質
・落ち着かない
・集中しにくい
・ゆううつ
・頭痛
・眠気
・胃のむかつき
・脈が遅い
・手のふるえ
・食欲または体重増加
はい いいえ
Q5 上の症状を消すために、またタバコを吸い始めることがありましたか はい いいえ
Q6 重い病気にかかったときに、タバコはよくないとわかっているのに吸うことがありましたか はい いいえ
Q7 タバコの為に自分に健康問題が起きているとわかっていても、吸うことがありましたか はい いいえ
Q8 タバコの為に自分に精神的問題※が起きているとわかっていても、吸うことがありましたか 自分はタバコに依存していると感じることがありましたか はい いいえ
Q9 自分はタバコに依存していると感じることがありましたか はい いいえ
Q10 タバコが吸えないような仕事や付き合いを避けることが何度かありましたか はい いいえ

※禁煙や本数を減らした時に出現する離脱症状(いわゆる禁断症状)ではなく、喫煙することによって神経質になったり、不安や抑うつなどの症状が出現している状態。

 

喫煙による健康障害

1.喫煙と癌

喫煙は肺がんの危険因子であることはよく知られています。喫煙者は非喫煙者に比べて4~5倍肺癌死亡率が高くなります。その他、喫煙により喉頭癌、口腔癌、咽頭癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、膵臓癌、膀胱癌、子宮癌の罹患率が高まります。

2.喫煙と循環器疾患

喫煙は高血圧、高コレステロール血症と共に虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)の3大危険因子の1つです。また脳卒中(特に脳血栓、くも膜下出血)の危険因子でもあります。

3.喫煙と呼吸器疾患

喫煙者は咳・痰などの呼吸器症状の訴えが多く、慢性気管支炎や肺気腫などの慢性閉塞性肺疾患の罹患率が高くなります。

4.喫煙と消化器疾患

喫煙により胃・十二指腸潰瘍、慢性胃炎の罹患率が高くなります。

5.喫煙と寿命

喫煙者は種々の疾患の死亡率が高いため平均余命は非喫煙者に比べて2~6年程度短く、老化が5年早く進むと推定されています。

6.受動喫煙

喫煙は、喫煙者のみならず、煙を吸い込む周囲の人(受動喫煙者)にも害を及ぼします。
灰皿でくすぶっているタバコから発生する煙の中には、喫煙者が吸い込む煙よりはるかに多くの発癌性物質が含まれています。

7.喫煙の胎児への影響

妊娠中の喫煙は低出生体重児、早産、流産、死産、胎盤機能不全、胎児低酸素症の原因になります。

8.禁煙外来にかかる費用

自己負担が3割の方は使用する薬(チャンピックスとニコチネルTTS)によりますが、約3ヵ月の治療スケジュールで1万3000~2万円程度です。

院 長: 能戸 徹哉

このページの先頭へ