ドクターコラムDoctor Column

お酒は体に悪いのか

 コロナ禍のステイホームで飲酒量が増えていませんか。タバコほど知られていませんがアルコールも癌の原因になります。
 アルコールによって口腔癌、咽喉頭癌、食道癌、肝臓癌、大腸癌、女性の乳癌などの癌のリスクが高まります。喫煙が加わると相乗効果でリスクが大幅に増加します。

 アルコールは肝臓で発癌性のあるアセトアルデヒドに分解され、アセトアルデヒドはアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)により分解されます。このALDH2は普通に働くタイプ(活性型)、分解が遅いタイプ(低活性型)、全く働かないタイプ(非活性型)の3つのタイプが存在します。
 非活性型は日本人の約5%にみられ、アルコールがまったく飲めない下戸の人です。
 活性型は白人や黒人の大半がこのタイプで、飲み過ぎによるアルコール依存症も問題になります。
 低活性型は顔が赤くなるものの、ある程度呑めるタイプで、日本人の約45%を占めます。コップ1杯のビールで顔が赤くなる体質が、現在又は飲酒を始めた最初の1~2年のいずれかにあった人は低活性型と思われます。このタイプの人が多量のアルコールを飲むようになると癌のリスクが高まるのです。飲酒で顔が赤くなりやすい人、飲酒量の多い人、飲酒に加え喫煙もする人は、積極的に癌検診や内視鏡検査を受けた方がいいと思います。

 厚生労働省が2000年に国内、海外の研究結果を基に発表した『健康日本21』で、通常のアルコール代謝能を有する日本人においては、節度ある適度な飲酒は1日平均純アルコールで20g(女性はその半分)程度であると明文化されています。
 20gとは大体、日本酒1合、ビール500ml、酎ハイ(7%)350ml、ウィスキーダブル60mlなどに相当します。
 純アルコール量(g)= 酒の量(ml)× 度数または% / 100 × 比重(0.8)で計算できます。

 しかし、この適正飲酒量20gまでOK説は実はもう古いのです。2018年4月に権威ある医学雑誌である『Lancet(ランセット)』に掲載された英国ケンブリッジ大学などの研究では、「死亡リスクを高めない飲酒量は、純アルコールに換算して週に100gが上限」と結論しています。アルコール摂取量が週に100g以下の人では死亡リスクは飲酒量に関わらず一定だったのに、週に100gを超えてから150gくらいまではおだやかに上昇し、それ以降は急上昇しているのです。
 さらに同年8月には、同じく『Lancet』に「195の国と地域で23のリスクを検証した結果、健康への悪影響を最小化するなら飲酒量はゼロがいい」と結論づけた論文が掲載されたのです。心疾患(心筋梗塞など)、脳梗塞については少量飲酒で発症リスクが下がるという結果が出ているものの、癌(特に乳癌)や高血圧などの他の疾患のリスクは少量飲酒においても高まっていくので、心疾患、脳梗塞の予防効果が相殺されるのです。
 つまり、適正飲酒量1日20gでは多すぎ、健康に配慮するならばもっと減らす方向、出来たら飲まない方が望ましいということです。

 適正な飲酒量は自分のリスクを総合的に判断して決めるべきだと考えます。血の繋がった近い親族に癌の人がおらず、遺伝的に癌のリスクが低い人であれば、1日1~2杯のお酒を飲むことは問題ないだろうし、飲酒量が少量であれば心疾患、脳梗塞のリスクが下がります。その一方で、家族に癌の人がいるなどの癌のリスクが高い人は、アルコールの摂取量を最低限に抑えることをお勧めします。癌に関しては、飲酒量がゼロの場合が一番リスクが低いと報告されているからです。また、飲酒未経験な人や飲酒が習慣化していない人は、今後の人生で飲酒をしないという選択が1番賢いのかもしれません。飲酒される人はこの様な人達に飲酒を勧めてはいけません。

副院長:能戸 久哉

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