ドクターコラムDoctor Column

アニサキス症による食中毒

 魚介類を生で食べる習慣のあるわが国では「アニサキス」という寄生虫による食中毒に注意が必要です。体長2~3cmほどで白色の太い糸状に見えるアニサキスが寄生した魚介類を摂食する事で感染します。原因魚介類ではサバが最多ですが、イカ、アジ、イワシ、サンマ、カツオ、サケ、タラなども報告されています。90%以上が日本からの報告で、レセプトデータを用いた試算では年間7000件程度の発生が推計されています。

 アニサキス症の病態にはアレルギー反応が関与しており、症状的に4つに分類されます。

(1)胃アニサキス症

 アニサキスが胃壁に刺入することで、生食後数時間して悪心、嘔吐、激しい上腹部痛をもって発症します。内視鏡的に取り除くことで診断・治療となります。アニサキス症の大半がこの症状を呈します。過去にアニサキスに感作されておらず、アレルギー反応が弱い場合には症状がほとんどない事もあり、健康診断の内視鏡検査で偶然発見される事もあります。

(2)腸アニサキス症

 アニサキスが腸壁に刺入することで、生食後1~10日程して悪心、嘔吐、腹痛をもって発症します。時に腸閉塞や腹膜炎を起こし開腹手術になることもあります。

(3)消化管外アニサキス症

 稀にアニサキスが消化管を穿通して腹腔内へ移動し、寄生部位に炎症性の肉芽腫を形成する事があります。大部分は無症候性ですが、腫瘤として鑑別診断を要します。

(4)アニサキスアレルギー

 魚介類の摂食後にアニサキスの成分、分泌物を抗原とした全身性のアレルギーを認める事があります。蕁麻疹を主症状として、更に血圧低下、呼吸困難などのアナフィラキシー症状を呈する事もあります。アニサキスの抗原性は加熱しても冷凍しても消えないことが多いため、アニサキスアレルギーの方は疑わしい魚をできるだけ避ける以外に予防するすべはありません。アニサキス特異的IgE抗体を測定することで診断が可能です。

 アニサキスアレルギー以外のアニサキス症の予防としては、熱処理(60度、1分以上)が確実な感染予防ですが、冷凍処理(-20度、24時間以上)で不活性化しますので冷凍処理後に解凍して調理されたものであれば問題ありません。他には内臓に寄生するアニサキスは漁獲後に筋肉に移行しますので新鮮なうちに内臓を摘出するなどの工夫も予防には有効です。
 なお、一般的な料理で使う食酢での処理、塩漬け、醤油やワサビをつけてもアニサキスは死滅しません。新鮮な魚介類をそのまま生で食べる場合には十分注意してください。

副院長 : 能戸 久哉

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