ドクターコラムDoctor Column

大腸憩室症について

 大腸憩室とは大腸の壁の弱い部分が腸管内圧の上昇により腸の外側へ向かって袋状に飛び出したものを言います。
 憩室の成因については食物繊維摂取量の不足や、加齢に伴う大腸の衰え、便秘による腹圧の上昇などが要因として挙げられていますが、完全には解明されていません。
 近年、本邦では大腸憩室保有者は増加傾向にあり、2万例(平均52歳)を超える大腸内視鏡による検討では大腸憩室保有率は23.9%で、年齢とともに上昇していくことが明らかになっています。
 大半の憩室保有者は無症状か便通異常や軽い腹痛のみで経過しますが、約20%の患者で大腸憩室症(憩室炎や憩室出血)を起こします。憩室炎は発症頻度が高く、憩室出血の約3倍程度と報告されています。

(1)憩室出血

 文字通り憩室から出血することで、腹痛を伴わないことが多く、鮮血便が主な症状です。70~90%の患者で保存的治療(腸管安静など)により自然止血しますが、それ以外では内視鏡的止血術またはカテーテルによる動脈塞栓術や、稀に外科手術で止血します。
 再出血率が高いことが問題で、1年後で20~35%、2年後で33~42%とされています。鎮痛薬である非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)および抗血栓薬のアスピリンは大腸憩室出血および再出血のリスクを高めます。アスピリン以外の抗血小板薬、抗凝固薬は一定の見解が得られていません。NSAIDsとアスピリンを内服されている場合には、再出血予防のためにその中止を検討します。また、肥満は大腸憩室出血のリスクになると報告されています。喫煙、飲酒との関連は明らかではありません。

(2)憩室炎

 憩室の中で細菌が繁殖し、炎症を起こすことで発症します。持続的な腹痛や発熱、下痢、悪心嘔吐などが主な症状です。憩室炎が重症化し、うみがたまる膿瘍や腸に穴が開いてしまう穿孔が合併すると、経皮的ドレナージ(皮膚の上から膿瘍へ針を刺しうみを抜く)や大腸切除術が必要になります。憩室炎全体の80~90%は膿瘍や穿孔を伴わない憩室炎で、保存的治療(腸管安静と抗菌薬投与)により70~100%が改善します。
 膿瘍や穿孔を伴わない憩室炎の再発率は13~47%、膿瘍を合併した憩室炎を保存的に治療した場合の再発率は30~60%とされています。憩室炎の再発予防に関しては、有効性が証明された方法はまだありません。また、喫煙は憩室炎の合併症の増悪に関与している可能性が高く、肥満も関連がつよいと考えられています。飲酒、食物繊維、NSAIDsとの関連は明らかではありません。

 憩室炎や憩室出血を起こしたことのある方はもちろん、現在まで無症状の大腸憩室を持っている方も禁煙と肥満解消に努めてください。

副院長 : 能戸 久哉

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