ドクターコラムDoctor Column

糖尿病と心不全

 平成28年の「国民健康・栄養調査」では、糖尿病が強く疑われる者(糖尿病有病者)、糖尿病の可能性を否定できない者(糖尿病予備群)はいずれも約1,000万人(合わせて約2,000万人)と推計されており、今や糖尿病は国民病と言われています。
 糖尿病の治療目標は血糖をコントロールすることによって合併症の発現を抑え、健康な人と変わらない日常生活の質を維持し、健康な人とかわらない人生を過ごすことです。
 糖尿病の合併症としては細い血管が障害されて起こる三大合併症(網膜症、神経障害、腎症)と大血管障害(狭心症、心筋梗塞、抹消動脈壊疽、脳梗塞)が重要ですが、心不全も糖尿病と密接に関連しています。
 現在は高齢化と食事の欧米化により糖尿病も心不全も爆発的に増加しており、今回は糖尿病と心不全の関係について説明します。
 心臓はポンプのように血液を全身に送り出しています。この働きが低下して全身に必要な血液を送れなくなってしまった状態が心不全です。
 糖尿病患者の心不全発症には下記の二つの機序が考えられています。
 糖尿病の存在が直接心筋にダメージを与え心臓のポンプ機能を低下させ心不全を発症させることがあり、糖尿病性心筋症と呼ばれています。
 一方、糖尿病は心臓の血管(冠動脈)の動脈硬化を進行させて狭心症や心筋梗塞を引き起こしますが、重症化すると心臓のポンプ機能が低下し心不全を発症することがあります。これは虚血性心筋症と呼ばれています。
 また糖尿病患者に心不全が発症すると糖尿病が悪化することが分かっており、糖尿病と心不全両方が進行してしまう悪循環に陥る危険性があります。
 糖尿病を合併した心不全の治療は基本的には他疾患が原因の心不全治療と変わりませんが、近年、腎臓を介してブドウ糖を尿に排泄する糖尿病治療薬(SGLT2阻害薬)が心不全治療にも有効であることが確かめられ、今後の心不全治療薬として期待されています。
 いずれにしても糖尿病の合併症を予防するためには糖尿病の初期から病気と向き合って生活習慣の改善(食事、運動)を心掛けることが大切です。

院長 : 能戸 徹哉

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