ドクターコラムDoctor Column

鉄欠乏症について

 鉄の60~70%は血液中のヘモグロビン(Hb)の成分として、20~30%は体内に貯蔵鉄として蓄えられています。ヘモグロビンとは血液中の赤血球が酸素を運搬するのに必要なタンパク質の事です。血液中の鉄が足りなくなると貯蔵鉄から不足分が補わられます。貯蔵鉄が不足している状態(潜在性鉄欠乏)から血液中に補填出来なくなると、ついには貧血となります。よって貧血と判断されたら、体内の貯蔵鉄がほぼ底を突いた重症レベルの鉄欠乏状態です。欧米では多くの食物に添加物として鉄分が加えられているため鉄分の摂取量が少なすぎる事による鉄欠乏症はまれです。それに対して日本の女性の鉄不足は深刻で、55歳以下の月経のある女性の大半が鉄不足となっているのが現状です。

(1)鉄欠乏症の原因

  • 鉄の摂取不足や吸収障害:極端な偏食や無理なダイエット、消化管のなんらかの異常による吸収障害
  • 鉄の喪失:ほとんどの原因は過剰な出血です。例えば婦人科疾患(子宮筋腫、子宮内膜症、子宮ガンなど)、消化管出血(胃潰瘍、胃がん、大腸がん、痔など)です。激しいスポーツなどで引き起こされることもあります。
  • 鉄の需要増加:成長期、妊娠・授乳期の女性

(2)鉄欠乏症の症状

●動悸、息切れ、疲れやすい、頭が重い、めまい、顔色が悪いなど

 貧血による体内の酸素不足の症状

●骨粗鬆症、肌荒れ、爪の変形やもろさ、髪が抜ける、舌炎や口角炎

 骨、皮膚、粘膜の素であるコラーゲン生成の低下による症状

●うつ、パニック障害、発達障害などの神経症状

 なんらかのストレスを感じた時に、防御対策として体はアドレナリンを出し体を緊張状態にします。そのストレスに対抗するためにドーパミン、ノルアドレナリン、セトロニン、GABAなど脳神経伝達物質と呼ばれる物質を瞬間的に脳内で生成し、ストレスに対抗してバランスをとります。これらの物質が作られる際に鉄が必要なのです。女性が出産後、時に情緒不安定に陥るのも鉄不足の悪化が一因と考えられています。

●不妊症、早産や低出生体重児の原因

 妊婦さんが鉄不足だと胎児も鉄不足となります。

●その他として、嚥下障害、むずむず脚症候群(就寝時に足がむずむずして寝付けない)、異食症(特に氷を好んで食べる)

(3)鉄欠乏症の診断

 一般血液検査でヘモグロビン(Hb)値が成人男性で「13g/dl未満」、成人女性で「12g/dl未満」、80歳以上の場合は「11g/dl未満」で貧血と診断されますが、鉄欠乏性貧血の赤血球は小型となるため血液検査項目のMCV(平均赤血球容積、正常80~100fl)が90を下回り、かつ鉄欠乏を疑われる症状を感じられている方は潜在性鉄欠乏(かくれ貧血)かもしれません。確定診断は鉄の貯蔵タンパク質である血清フェリチン値、血清鉄、TIBC(総鉄結合能)などで判断します。

副院長 : 能戸 久哉

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