ドクターコラムDoctor Column

動脈硬化を予防するための脂質異常症の診断・治療

1)脂質異常症と動脈硬化

血液中の脂質の値が基準値から外れた状態を脂質異常症といいます。
普段一般的に調べられている脂質は、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)、HDLコレステロール(善玉コレステロール)、トリグリセライド(中性脂肪)です。
疫学研究においてLDLコレステロール、トリグリセライドが高いほど、またHDLコレステロールが低いほど、動脈硬化が進行し、冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)の発症率は高まります。また脳梗塞(アテローム血栓性脳梗塞)に関してもほぼ冠動脈疾患と同様の関連が示されています。

2)脂質異常症の診断と管理目標

日本動脈硬化学会の動脈硬化性疾患ガイドラインでの脂質異常症の診断基準(空腹時採血)は下記の表のとおりです。

LDLコレステロール 140mg/dL以上 高LDLコレステロール血症
120~139mg/dL 境界域高LDLコレステロール血症
HDLコレステロール 40mg/dL未満 低HDLコレステロール血症
トリグリセリド 150mg/dL以上
175mg/dL以上(随時採血)
高トリグリセライド血症
Non-HDLコレステロール
(総コレステロール-HDLコレステロール)
170mg/dL以上 高Non-HDLコレステロール血症
150~169mg/dL 境界型高Non-HDLコレステロール血症

さらに個々の病態により、LDLコレステロールの管理目標値を下記の(1)、(2)のように細かく規定されています。

(1) 冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症)や脳梗塞(アテローム血栓性脳梗塞)の既往のある場合

LDLコレステロールの管理目標値を100mg/dL未満とし、その中でも、「急性冠症候群」、「家族性高コレステロール血症」、「糖尿病」、「冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞の合併」のいずれかがある場合は管理目標値を70mg/dL未満にしています。

(2) 冠動脈疾患や脳梗塞の既往がない場合

糖尿病、慢性腎臓病抹消動脈疾患のいずれかを持っている人はLDLコレステロール管理目標値を120mg/dL未満とし、さらに糖尿病の人に抹消動脈疾患、糖尿病合併症(網膜症、腎症、神経障害)、喫煙のいずれかを認める場合は管理目標値を100mg/dL未満にしています。

3)脂質異常症の治療(1) (生活習慣の改善)

基本的に過食を避け、禁煙をし、有酸素運動(ウオーキング等)を取り入れて身体活動不足にならないようにしましょう。
食事の注意点としては、血中LDLコレステロール値が高い方はコレステロールの多い食品(鶏卵の黄身や魚卵等)や飽和脂肪酸を多く含む食品(肉の脂身・内臓・鶏皮、乳製品、卵黄、トランス脂肪酸を含む菓子類、加工食品)を控えるようにしましょう。
血中トリグリセライドの高値の方は、甘いものや酒・油もの・糖質の摂りすぎに注意しましょう。
緑黄色野菜、大豆製品、海藻、未精製穀類を多めに摂るのもよいでしょう。

4)脂質異常症の治療(2) (薬物治療)

生活習慣の改善に取り組んでも血中LDLコレステロールやトリグリセリドが下がらない人は薬剤を使って管理目標値まで下げる必要があります。
使う薬は病状により異なりますので医師と相談して決めることになります。

アテローム血栓性脳梗塞
頚動脈や脳の太い動脈の動脈硬化病変が破綻して血栓が形成されて閉塞したり、血栓が末梢へ移動して血管を閉塞することに より起こる脳梗塞。

急性冠症候群
冠動脈(心臓の筋肉に血液を運ぶ血管)の動脈硬化病変が破綻し、その位に血栓ができて血管が完全閉塞またはそれに近い状態となる病態。

家族性高コレステロール血症
遺伝が原因でLDL-コレステロール値が高くなる病気。
30、40代といった若い年齢での心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患の発症リスクが非常に高くなる。

慢性腎臓病
腎臓の障害もしくは腎機能低下が3か月以上持続している状態の総称。

抹消動脈疾患
四肢(両脚、両腕)動脈、腹部内臓動脈、頸動脈、腎動脈の動脈硬化が原因で起こる閉塞性疾患。

院長 : 能戸 徹哉

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