ドクターコラムDoctor Column

慢性胃炎について
(主に自己免疫性胃炎について)

 慢性胃炎という病名には三つの意味があります。一つ目は、胃もたれ、胃痛、膨満感などの慢性的な上腹部症状に対しての症候学的胃炎です。二つ目は、胃バリウム検査や内視鏡検査で粘膜の萎縮などの慢性変化を認めた場合の形態学的胃炎です。三つ目は組織検査により病理学的に診断された組織学的胃炎です。消化器内科の専門医が言う慢性胃炎とは、胃がんの発生毋地(前がん病変)となる形態学的胃炎や組織学的胃炎の事を指しています。

 慢性胃炎の原因の多くはピロリ菌の感染によるもので、ピロリ菌の除菌治療により胃がんを予防できます。他に、自己免疫的機序による自己免疫性胃炎、サイトメガロウィルス、結核、梅毒などの感染による胃炎、非ステロイド性抗炎症薬の長期連用による胃炎、肝硬変や腎不全に伴う胃炎などがあります。 特に、自己免疫性胃炎は以前は欧米に比べ少ないとされてきましたが、実はもっと多い疾患である事がわかってきて最近注目されています。
 例えば、胃ガン発症リスクを判定するABC健診のD群(胃ガンリスクが最も高い群)は、通常はピロリ菌感染による萎縮が高度に進行したために ピロリ菌も生息できなくなり自然除菌されたと解釈するのですが、25%が自己免疫性胃炎だったとする報告があります。また、除菌治療を何度やっても成功しない人の中に30%ほど自己免疫性胃炎の人が含まれているとの報告もあります。
 自己免疫性胃炎は免疫系の異常により胃粘膜の壁細胞に対する自己抗体が壁細胞を障害して生じる胃炎です。進行すると壁細胞の破壊による高度の低酸症から鉄欠乏性貧血になったり、ビタミンB12欠乏による悪性貧血やそれによる神経症状がでたり、低酸症により酸分泌を促すホルモンであるガストリンが高値となり胃神経内分泌腫瘍や胃がんの発生リスクが増加します。胃ガンの発生率はピロリ菌による萎縮性胃炎の約4倍とも報告されています。また1型糖尿病や慢性甲状腺炎などの他の自己免疫性 疾患の合併も数多く報告されています。以上から単なる胃の疾患ではなく全身性の疾患として捉えて精査治療していく必要がある胃炎です。

 慢性胃炎についていくつか注意してほしい事を列挙します。

(1)健診の胃バリウム検査の読影をしておりますが、毎年慢性胃炎を指摘されているにも関わらず、胃がんを指摘されたわけではないし症状もないためなのか放置されている方が多くいられます。すぐにピロリ菌が感染しているか調べ、感染していれば除菌治療をして下さい。また、除菌治療をしていても成否の判定検査を受けていない方もおられます。1回目の除菌治療の成功率は約90%です。

(2)ピロリ菌の除菌をしても胃がんにならないわけではありません。毎年、胃の検査、できれば内視鏡検査を受けてください。

(3)胃バリウム検査や内視鏡検査で慢性胃炎を指摘された場合、ピロリ菌の検査で陰性だからといって安心してはいけません。上述した自己免疫性胃炎や自然除菌された可能性があります。

副院長 : 能戸 久哉

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