ドクターコラムDoctor Column

糖尿病の慢性合併症について

糖尿病は、長期間高血糖が持続することで全身の血管にダメージを与え、数々の臓器障害を引き起こします。この糖尿病合併症について解説します。

障害を受ける血管の大きさにより、最小血管症と大血管症に分類されます。
最小血管症は細い血管が傷つけられて生じる疾患で、網膜症、腎症および神経障害が含まれ、大血管症は比較的大きな血管が傷つけられ生じる疾患で、冠動脈疾患、脳血管障害、末梢動脈疾患が含まれます。
糖尿病治療の本質はこれらの合併症の発症を防ぐことです。そのためには、糖尿病初期から生活習慣の改善や薬物療法で厳格に血糖をコントロールすることが重要です。

1.最小血管症

(1) 糖尿病性網膜症

初期は網膜の血管壁細胞の変性、基底膜の肥厚による血流障害、血液の漏出が原因で、出血、白斑、網膜浮腫が発症します。進行すると黄斑症を起こしたり、硝子体出血や網膜剥離を起こし視力障害を認めます。血管新生緑内障、白内障も発症することがあります。糖尿病治療中の方は眼科で定期的に眼底検査を受ける必要があります。

(2) 糖尿病性腎症

腎糸球体血管に網膜症と同様の血管障害が起き、糸球体構造が破壊され機能障害が起きます。最終的に末期腎不全になると人工透析を行うことになります。
現在、人工透析を始める人の原因疾患で1番多いのは糖尿病性腎症です。
高血圧も腎機能に悪影響を与えますので、腎機能の悪化を防ぐためには糖尿病と高血圧の厳格な管理が重要です。

(3) 糖尿病性神経障害

高血糖の持続により両足の感覚障害(しびれ、知覚低下、異常知覚、疼痛)を認めるようになります。また自律神経も障害され、起立性低血圧、膀胱機能障害、勃起障害、消化管運動神経機能の低下による嘔気、便秘、下痢など認めます。
厳格な血糖管理によって神経障害の進行を予防できます。

2.大血管症

(4) 冠動脈疾患

糖尿病患者が冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)を発症するリスクは高く、冠動脈病変は病変長が長く、多枝病変で石灰化を伴うなど複雑病変を呈することが多いため、血行再建術が進歩した現在でも予後不良です。
また、急性心筋梗塞発症時に明らかな胸痛のない事が多いのも特徴です。

(5) 脳血管障害

糖尿病は脳梗塞の危険因子で、糖尿病のない人に比べ2~4倍頻度が高まります。
糖尿病と高血圧は合併する事が多く高血圧も脳梗塞の危険因子なので、脳梗塞を予防するためには糖尿病と高血圧の管理が重要です。

(6) 抹消動脈疾患

四肢・腹部・腎臓の動脈などを末梢動脈と呼びます。抹消動脈疾患とは末梢動脈が狭窄・閉塞することにより血液の流れが悪くなり様々な症状を引き起こす疾患で、糖尿病患者の10%程度に抹消動脈疾患が合併します。
糖尿病を放置すると足の動脈の動脈硬化が進み、最終的に足の潰瘍・壊疽を発症することもあります。

3.その他

糖尿病になるとアルツハイマー型認知症や脳血管性認知症の合併頻度が2倍程度高くなります。また糖尿病患者は歯周病や感染症にも罹患しやすくなります。

院長 : 能戸 徹哉

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